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経口避妊薬・ピルの解禁問題について | ||
『サンデー毎日』2000.3.5 英国で46人が死んでいた これでも「ピルは安全」か! ● 女性たちに歓迎され承認されたはずのピル。だが英国では4年間にピルの副作用と疑われる46件の死亡が報告されていた。実は国内でも危険性を指摘されるピル1種類が姿を消した。しかし、その薬の発売にむけ製薬会社が再び動き始めた。 十分な情報のないまま、ピルの「安全神話」を作った責任は誰にあるのか。 ● 「低用量ピルの安全性について疑問を口にすると、すぐに『デマゴーグだ』とか、『とりこし苦労だ』と言われてしまいます。あるいはピルを飲んで死亡するケースについて尋ねると、『非常にまれなことだから、心配する必要はない』という答が返ってきます。ピルは女性たちに『自由を与える薬』というイメージを与えてきた。私の娘・キャロラインも、おそらくそう思って飲んだのでしょう」 昨年末、イギリスから私の元に届いた手紙には、そう記されていた。差出人はブラッドフォード在住のジェニー・ベーコンさん。五年前、娘のキャロラインさんを低用量ピルによる副作用で失った、当事者だ。 当時十四才だったキャロラインさんには、ボーイフレンドがいた。 「娘は家族計画クリニックへ行き、ピルを処方してもらいました。母親である私も、娘がピルを飲んでいることをまったく知らなかったんです。彼女は慎重な性格だったから、もし少しでも危険性について知識があったなら、そして『安易なセックスについてよく考えなさい』とクリニックの誰かがブレーキをかけさえしてくれれば、飲まなかったに違いない」 ピル服用後、キャロラインさんはクリニックに頭痛を訴えたが、主治医には伝わらず、服用を続けた。半年後、血栓症による発作に襲われ、昏睡状態に。そして約一年間の闘病生活の後、死亡した。 若い娘を突然失った母のジェニーさんは、その死を無駄にしないために、と立ち上がり、「子どもへの経口避妊薬投与に反対する親の会」を結成する。そして一万人を越える署名を政府へ提出し、世界へむかって今も情報発信を続けている。 ● 手元にイギリス保健省医薬管理局がまとめた「94年1月〜97年12月の期間、経口避妊薬ピルに関連した死亡例」のデータがある。これによれば、4年間の低用量ピルによる死亡は四十六件にのぼる。成分が少しずつ異なるため日本に入っていない製品も含まれているが、今回日本で承認されたピルとまったく同成分の薬による死亡が十一件ある。そのうち八件は「マーベロン」(日本でも同名で承認された)という薬によるものだ。 また、イギリスでは低用量ピルの副作用の疑いで死亡した女性の遺族や重症となった患者137人が、製薬会社や医師を相手どって裁判を起こしている最中という。 イギリスだけではない。「エコロジーと女性」ネットワークの調査によると、スウェーデンでは「デゾレット(マーベロン)」と「マーシロン」というピルの副作用で血栓症になったとして、97人が製造元のオルガノン社を提訴中という。 「また、ニュージーランドでは低用量ピルの一種類・第三世代ピルの服用者約16万人のうち、93年1月〜99年6月の間に血栓症による死亡が9件出ています。世界各国の情報を収集すればするほど、『安全性は確認されている』といった日本国内の報道との落差を痛感しますね」と、同ネットワークの吉田由布子さんは危惧する。 ● 今から2年ほど前、98年11月16日。 ピル承認の"追い風"となったアクションがあった。超党派の女性議員38名が、「低用量ピルの早期認可に関する要望」を宮下創平厚生大臣(当時)へ申し入れたのだ(のちに2人が慎重派に変わった)。 大臣との質疑では「低用量ピルが開発されれば、女性の身体を痛めなくてもすむのでぜひ早期認可をお願いしたい」(南野知恵子議員)といった発言も見られた。 この要望の中に、危険性への危惧や海外の訴訟などについての指摘はいっさいなかった。 「低用量ピル」は開発された順に、「第一世代」、「第二世代」、「第三世代」と、異なる三種類がある。それぞれ、使われている合成ホルモンの種類も、違う。 そして、世界保健機関(WHO)は、「第三世代」ピルのリスクが他と比べて高いことを認めているのだ。 事実、厚生省医薬安全局長・中西明典氏は参議院国民福祉委員会(九九年三月十五日)で、次のように語った。 「WHOが第二世代のピルに比べて血栓症のリスクが高い、したがってさらなる調査結果が得られるまで第三世代以外のピルの使用が望ましいという結論を示しております」 ● 一方、「ピル承認」の日が近付く中、市民の中からはピルの危険性を察知し、慎重審議を要望する動きが出てきていた。 前出の「エコロジーと女性」ネットワークは、97年〜承認直前までの間に計8回、ピルの審議継続を求める要望書を厚生省中央薬事審議会へ提出。「第三世代ピルを他のピルと一括に審議するのは無謀」、「ピルの中のホルモンは内分泌かく乱物質としても慎重に審査する必要があり、新たな毒性評価の視点で安全性を見直すべき」と主張を続けた。同時に、海外の訴訟や死亡例などの情報を厚生省のみならず、議員やマスコミ各社にも積極的に通知する運動を展開してきた。 また「準備出産&からだのおしゃべり会」は、社民党の清水澄子議員を通じ、低用量ピルのリスクについての根本的な疑問を、参議院国民福祉委員会で投げかけた。 しかし99年6月、低用量ピルf一括承認されたのである。 ● 実は認可されたピルのうち一種類が、ひそかに市場から消えている。 ピル承認の際、厚生省は「第三世代」ピルについてのみ、ある「制限」をつけた。「第三世代ピル『マーベロン』は第二世代のピルに比較し血栓症のリスクが二倍とのWHOの疫学調査報告を否定し得ないことや諸外国における対応状況をふまえ、処方にあたってはその他のピルが適切でないと考えられる場合に投与を考慮する(第一選択薬とはしない)旨を添付文書に盛り込むこと」 この措置は、大きな意味を含んでいる。「第三世代」ピルについて、国が一定のリスクを認めたことに他ならないからだ。 日本で承認された「第三世代」ピルは「マーベロン」一種類。発売元の日本オルガノン社は、この措置を不服とするも「処方制限がついたまま発売するのは戦略上好ましくない」と新聞でコメント。販売は延期されたままだ。 同社に対して、発売延期の理由、厚生省の指導に対する見解、発売の見通しについて再三質問すると、ようやく2月3日、マーケティング第三部・野口浩一氏から、次のような返答が届いた。 「最近の研究とデータの再解析によって、第二世代ピルと第三世代ピルとの間にリスクの差がないことが確認されており、その結果、ドイツとイギリスでは処方制限が撤廃された」、「処方制限の撤廃に関して厚生省と話し合いうのが必要と考え」、「発売時期は厚生省との話し合いが進む中で、社内で検討する」 今後、製薬会社は積極的に、処方制限の撤廃を働きかけていくだろう。もし処方制限が解除されれば、「第三世代ピル」は日本の市場へ出ていく。そして、このことによって、欧米のような事態を引き起こさない、とは誰も断定できないのだ。 ● マスコミにも問題がある。 海外の集団訴訟などの事態、あるいは「第三世代」ピルのリスクについて、ほとんど報道してこなかったのだ。 それだけではなく、「ピルを有効に活用するには」と、繰り返し推進の論調を掲げる朝日新聞を例にとると、ピルに肯定的な医師や評論家、タレントのみをパネラーとし、ピル発売元すべての製薬会社11社を協賛企業として並べ、99年11月18日に大々的なフォーラムを主催している。さらにその内容を、新聞の一面を使い「広告特集」(12月26日)として掲載。この中では、副作用についての一般的な情報には触れているが、海外で発生している集団訴訟や「第三世代」ピルにかけられた処方制限など、危険性に関する具体的な事例についてはまったく言及していない。そして「正しい知識や理解を十分に習得してから服用していただきたいと願っています」と、誌面を締めくくっている。 だがもし本当に、「正しい知識や理解」による選択が大切だと言うのならば、少なくともその大前提として、ありのままの事態、安全性も危険性も含めすべての具体的な情報が報道されなければ、いったいどうやって、そして何を手がかりに、一般の消費者は「選択」すればよいのだろうか? どうやって自分の身体を守ったらよいのだろうか? 欧米ではピル推進・反対の立場を越え、ピルをめぐるさまざまな現実が報道されている。欧米と日本を比較すると、流通している情報の量も内容も、あまりに格差がありはしないだろうか? ● ピルで娘を失ったジェニー・ベーコンさんは、「日本の女性たちへ伝えたいこと」として、手紙の中でこう記している。 「医療の専門家からメッセージを与えられる場合、しばしばピルは安全とされがち。女性たちも、それを信じがちです。どうか、熟考してください。ピルを飲みたい人は、添付されたリーフレットを隅から隅まで熟読し、内容を完全に理解し、医学的な検査によってあなたの身体が服用可能かどうか、完璧にチェックすること。もし服用後に少しでも身体の調子が変わったら、すぐに医師に相談すること。そしてピルで性感染症は予防できない、ということを頭にたたき込んでください」 ジェニーさんが情報発信の運動を続ける理由―― 「私たちは、女性たちが事実を判断できるほどピルについて十分な情報が与えられているとは、思っていません。ピルはあまりにもたやすく処方されているのです」 |
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