| 柚 だ よ り Y U Z U C O L U M N |
12月号
|
|||||||
| <五感を刺激してくれる興味深い場所を探索する連載コラム「五感漫遊記」。今回は越生の柚もぎです> 埼玉県・越生(おごせ)は、梅と柚、ともに関東一の出荷量を誇っている場所。 春の「越生梅林」も有名ですが、この季節はなんといっても、柚もぎ。 ![]() 山あいの斜面、柚の木が無数に植えられている柚畑の中に入って、好きな柚を自分の手でもぐことができるのですよ。10個とって、おみやげに3個もらって、計13個で600円。たった600円で、貴重な体験ができるなんて、ウレシイ。 そもそも、私は「柚実」という名前をもらいながら、柚についてさほど詳しくありませんでした。 埼玉で「柚もぎ」ができる、と聞いて、これはとにかく体験しなければ、と、あわてて足を運んだのでした。 柚畑の中へ入っていくと……あるわあるわ、輝かんばかり、無数の柚をつけた木々が茂っています。 枝には、おどろくほど鋭いトゲが生えていました。 トゲを指に刺さないようにと気をつけながら、ハサミでチョキンと実を切り取る。 そのとたん、ぷうんとあたり一帯に漂う、あの、爽やかでかぐわしき、美しき香りよ。 ![]() 柚の皮はビタミンがとっても多くて、100グラム中にビタミンAが441u、ビタミンCは150ミリグラム。果汁も、ビタミンCが40ミリグラム入っているとか。 柚もぎを始める前に、農家で「柚の砂糖漬け」をいただきました。とってもおいしい。作り方は、あまりに簡単。 柚をよく洗い、半分に切って、種を出してから小口切りにします。砂糖と醤油!?を加えて、混ぜます。 大切なポイントは、すぐに食べること。 おいておくと、苦みが出てしまうから。 季節をそのまま、味わう幸せを、堪能できるはず。 オススメです。 ![]() ↑柚の木というのがこんな形をしていたなんて、生まれて初めて知りました。 柚という植物は、中国・揚子江上流が原産地だそうです。 奈良時代に日本へ入ってきて、今や冬至やお正月には欠かせない、日本の食を支える香り食材。 特に柚はかんきつ類の中で一番寒さに強いのだそうで、埼玉県では100トンもの柚を生産しています。 日本の食を支える柚、その柚を自分の手で収穫する経験。一度経験してみてはいかがでしょう。 「柚もぎ」農場はJR越生駅からバスで終点黒山下車、徒歩5分。毎年12月の末頃まで。 つれづれなる読書 『情緒論の試み』 辻邦生著 岩波書店 ![]() 私が真正面から敬意を抱いて読み続けてきた辻邦生は、「小説とは何か」を深く考えてきた作家だった。 小説とは、いったい何だろう? 小説家はなぜ小説を書き、どうして人々は小説を読むのだろうか? 作家にとって読者にとって、小説とは何を、どう与えてくれるものなのだろう、と。 また、日本において最も哲学的な小説家、埴谷雄高の導きを入口に、作品を発表するようになった辻邦生は、「ぼくの趣味は哲学だ」と語ってもいた。 その辻邦生が、『廻廊にて』『夏の砦』という長編作品の成功によって文壇に登場した後、『小説への序章』を発表し、「小説をめぐる理論的根拠」を追求し始めた、その延長線上で書き上げた作品がこの『情緒論の試み』だった。 * * * 残念ながらこの試みは、未完成のまま、辻邦生の死によって中断する。 だが、この文学評論集には、辻がやり遂げようと考えていた作業の方向が見わたせるように、『情緒論の構図』という資料が収録されている。 その資料の「第五章・意味構造体としての文学」に辻邦生はこう記している。 「文学は主体が外化する『意味構造』を文字表現で定着したものである。したがって自己性を失いつつ、その『意味』に絶対的に共感しつつ支配されれば、『情緒』を味わいうる。文学の目的は『情緒』を起こすことである」 本論を執筆するための見取図なので抽象的な記述になっているが、辻邦生の文学が「情緒」を読み手と共有しようとしていたことは確かだ。 * * * 私にとって辻邦生の作品とは、「生の歓びとは何か」をともに響きあわせるための装置だった。 そもそも意味など無い人の生を、豊かで歓喜に満ちた瞬間の連続にしていくことは、どう可能なのか、を辻邦生の文学は私にいつもいつも、語りかけてくれた。 その根元に「情緒」があったことを、私はこの本で知った。 ★月3回発行のメールマガジン「五感の歳時記」発行中! 購読(無料)お申し込みは、yuzumi@rd5.so-net.ne.jpまで「購読希望」とお書きになり、メールをお送りください。
|
||||||||